「なぜ自分はこの作品を上演するのか?」日野市平和事業2026

私は戦争を知りません。
それをありがたいと思うと共に、危機感を感じています。
日本という国は81年前、大変な戦渦の中に身を置き、その戦争の反省を活かしながら現在まで時間を重ねて来ました。
しかし、時間は記憶を風化させ、あまつさえ凄惨な過去を美化してしまう恐れがあります。

私は、この81年という時間を単なる数字ではなく、これからの未来へ繋げる為の、現在と地続きの過去なのだと言う事を、今回の国策落語やそれに類する作品を通して発信し続けたいですし、
今後も『戦争反対』のメッセージを発信し続けたいと想います。

国策落語『国策靴』企画・出演 

堀 慎太郎 

はじめに


こんにちは。
今回制作を務めました、齊藤舞夕です。
8月2日(日)、日野市にある多摩平交流センターにて、「公民館平和事業」が開催されました。

この事業は毎年8月に日野市で開催されており、幅広い世代の市民が集まって、朗読作品や合唱、戦争体験談などを披露・発表する場です。演劇ネットワークぱちぱちは公民館から依頼を受け、2023年から参加しています。
今年は、堀慎太郎さんが国策落語『国策靴』を上演しました。

今回、ぱちぱちで初めて「企画書コンペ」が行われ、堀さんの企画が選ばれたことで、
稽古から本番まで、全て堀さん主体で企画が進行しました。

このレポートは、制作・齊藤の視点で、
上演する作品の決定から本番にかけてどのようなことが行われたのか、
堀さんの創作の過程を記録に残すためのものです。

ぱちぱち初!企画書コンペの試み


この度、ぱちぱち初の試みとして、「企画書コンペティション」を行いました。

ぱちぱちが日野市から依頼を受けた時点で、平和事業のテーマや上演時間を踏まえ、
参加を希望するぱちぱちメンバーに企画書を書いてもらい、運営が選出する、というものです。

平和事業のテーマは「平和と祈り」。

企画書には、「タイトル」「上演形態」(独り芝居なのか、朗読なのか、形態は問いませんでした)そして、「想定している上演時間」を明記していただき、

作文「表現者として、なぜこの企画を上演するのか」(文字数制限なし)を必須で記述する以外は、何を書いても自由という形でした。

このコンペの結果、堀慎太郎さんの企画書が選ばれ、国策落語『国策靴』上演の運びとなりました。

ぱちぱちの運営チームは去年と同様に、企画者がやりたいこと・表現したいことをサポートするという立場で関わりました。

稽古の様子

稽古をする堀さん
堀さんが平和事業に参加するのは今年で4回目。
これまでは「国策落語」を独り芝居の形式にして上演してきましたが、
今回は原作の戯曲をそのまま「落語」として上演すべく、堀さんが毎回の稽古メニューを考え、稽古を行いました。

『国策靴』あらすじ


二人の男が何が一番大事かと議論をしている。
そこに現れた先生が 「そんな事で争っているご時世ではない」と収める。
「では何が一番大事か」という話になるが「お国の為になる事が一番大事だ」となる。
そこで一人の男が絶好のアイディアを出す。
登場人物は、先生、八さん、民さん の3人。
内容は複雑などんでん返しがあるようなものではなく、上演時間もそこまで長くなく、
誰が聞いてもオチを予想して楽しめるような、そんな作品です。

前回の上演で最大の難関だったのは「本人含む10人の演じ分け」でしたが、
今回は3人のキャラクターが戯曲内でしっかり分かれているため、前回ほど稽古の中で演じ分けが問題になることはありませんでした。

しかし、別の部分において、堀さんが深く考える場面がありました。
それは、「枕」についてです。

自分はなぜ「国策落語」を上演するのか?


落語において、お客さまを引き込むために大切な要素「枕」。
噺の前置きを語ったり、噺に関連した要素を話したりする最初の部分です。


今回の上演における「適切な枕」とは何か。

堀さんは以下のように骨組みを考えました。

・自己紹介
・国策落語とは?
・表現者として戦争に加担したくはない
・戦後81年が過ぎ、当時を語れる方が少なくなっている
・国策落語を選ぶ理由:表現者として出来る事は国策落語を語り続ける事である



噺の前置きを語るのではなく、「なぜ自分のような俳優が国策落語を上演するのか」という方向性に固まりました。

しかし骨組みは決まれど、具体的に何を語るのか。
創作期間中に美輪明宏さんの訃報があったこともあり、それを入れたほうが良いのではないかという思いや、
与謝野晶子の詩「君死にたまふことなかれ」の引用など、堀さんからはさまざまなアイデアが生まれ、その都度試行錯誤を重ねておりました。

我々運営はその様子を見ながら、堀さんが考えを整理する時間を共にしました。

「戦争反対」という自分の立場と、その理由をどう言えばお客さまに伝わるのか。
「国策落語」を上演するということは、堀さん自身にとってどのような意味があるのか。


さまざまなことを深堀りしたのちに、堀さんは骨組みを軸に、枕を完成させました!

本番の様子

当日は去年と同様猛暑日となりましたが、沢山のお客さまがご来場くださり、無事に上演を終えることができました。
他の参加団体さんから声を掛けていただいたり、毎年参加しているからこその積み重ねを感じました。

当日パンフレットの作成


作品の背景である戦時中の年表や用語解説など、より深く作品を楽しんでいただくために、当日は堀さんが作成したパンフレットを来場者全員に配布しました。

こちらからお読みいただけます。是非ご覧ください。

おわりに


2年連続で平和事業に制作として関わる中で、昨年度同様、平和や戦争について考えるのはもちろんですが、
今年は創作期間を通して「なぜ自分はこの作品を上演するのか」について深く考えました。

創作において、依頼の時点でテーマや趣旨、ターゲットはあらかじめ決まっていることがほとんどです。
今回の平和事業の場合は「平和と祈り」という絶対的なテーマがあります。
与えられたこの「平和と祈り」というテーマで自分は何を表現するのか、表現したいのか、

今回は「企画書コンペ」という形を通して、これをゼロからぱちぱちメンバー自身に考えてもらう機会になったのではと思います。

自分を見つめて、自身が伝えたいことを掘り出すという経験は、企画者の立場ではなくとも、例えば俳優という立場で作品に参加するということであっても、活きてくることだと思います。

今後、ぱちぱちという場を通して、沢山の人たちが今回の堀さんのような経験ができたら、社会にとっても演劇界にとっても、とてもよい循環が生まれるだろうなと感じました。

ぱちぱちのこれまでの「公民館平和事業」との関わり


ぱちぱちは2023年より、さまざまな形で毎年この事業に関わっています。
過去のレポートについては、こちらからご覧ください。

▶2023年レポート

▶2024年レポート

▶2025年レポート

「令和8年度 公民館平和事業」開催概要


名称
公民館平和事業 市民による平和への祈り

主催
公民館平和事業実行委員会

日時
2026年8月2日(日)13:00〜15:30

会場
多摩平交流センター3階 集会室6(入場無料)

協力
星槎国際高等学校の皆様